神蔵の酒造り

醸す

かもす

五紋神蔵を醸す鴨川蔵は、東山三十六峰に囲まれた自然豊かな場所にあります。
近くには吉田神社や世界遺産である下鴨神社、京都御所があり、そこかしこに歴史の息吹を感じることができます。
同時に京都大学や同志社大学を始めとした教育施設や、領事館、アートセンターが集まる、文化的でたくさんの学生が行き交う町でもあります。
蔵から歩いてすぐの場所にある鴨川は、様々な時代の変遷を経て、今は人々の憩いの場所となっています。

松井酒造は始めから京都で酒造りを行っていたわけではありません。
江戸時代中期には但馬国美含郡篠庄下浜村(現在の兵庫県香美町)にて酒造りを行っていたという記録が残ります。
酒造りのみでなく、漁業で栄えていた香住の港で廻船業も生業としており、その後、江戸時代後期に酒蔵を京都へ移したと伝えられます。
良い時代もあれば、困難な時代もありました。
どんな時代にも、長く愛される“ものづくり”を続けること、それが今の松井酒造につながっています。
その考えは、酒の味わいの根源にもつながると考えています。

町中にある蔵は、町中にあるが故に、昭和の終わりから平成にかけて、酒造りを断念せざるを得ない時期がありました。
2009年、同じ場所に復活させた鴨川蔵は、最新の設備を整えた新しいかたちの蔵に見えるかもしれません。
しかし、その実は、全量「手造り」の蔵です。
洗米から始まる仕込みは、全てにおいて人の手が入ります。
古く伝統的な手法にだけこだわっているわけではありません。
より旨い酒を追求するため、人の手だけで行うには限界がある「温度管理」と「衛生管理」においては、最新の設備を導入し徹底させています。
また、電力の約6割を太陽光発電により賄い、環境にも配慮しております。

松井は、酒の熟成状態とは、蔵がその酒をどれだけ慈しむかを示すバロメーターだと考えます。
質の高い酒を造るためには麹菌や酵母菌などの微生物が育つ環境を整えることが不可欠です。
それを可能にするため、鴨川蔵では低温発酵が可能なサーマルタンクを使用し、そして、上槽後の酒が無理なくゆっくりと熟成するように一年中−5度に保たれた冷蔵室に貯蔵しています。
また、庫内並びに店舗は紫外線による劣化を防ぐためにLEDライトを採用しています。

酒は微生物たちの力を借りて醸され、醸された酒を歳月が熟成させます。
“愛される酒になれ” “悦ばれる酒になれ”
自然の恵みである酒に、造り手の思いを感じていただけるよう、真摯に酒造りに向き合います。

耕す

たがやす

鴨川蔵は全量「酒造好適米」で仕込む蔵。
地産地消を第一に考え、主に京都産の「祝」「五百万石」を仕込みに用います。
どれも同じように見える米粒ですが、仕込みを進めるうちに、米の品種それぞれに個性があることが分かります。
その個性に合わせて、精米歩合、洗米・浸漬時間、水温、製麹、発酵温度や期間を柔軟に合わせていきます。
それも酒造りの奥が深いところ。
京都産のみならず、面白い品種があれば、貪欲に勉強していきたいと考えています。

都市部で酒造りを行うことは困難をもたらすことがあります。
松井酒造もかつては都市化の波にのまれ、酒造りを断念していた時期がありました。
2009年に手探りで再開、復活させた酒造りが徐々に実を結び、それに賛同してくださる契約農家の方も増えて参りました。
皆さまの力を借りながら、米にこだわり、誠実な酒づくりに努めます。

汲む

くむ

京都の地下には琵琶湖に匹敵する水量が蓄えられていると言われています。
比叡山に降った雨が長い年月を経て、ろ過され、不純物が取り除かれます。
その水を地下50メートルからくみ上げています。
京都御所の宮水、下鴨神社の直澄水とも同じ水脈といわれています。

水は、蔵の個性です。
硬水か軟水か、ミネラル、鉄分の含有量はどれくらいか。
松井の井戸水の硬度は平均すると35、ミネラル分の含有量が大変少ない超軟水です。
一般的に柔らかく穏やかな酒ができると言われます。
やもすると、発酵が弱くなりがちですが、そこが造り手の腕の見せ所。
常日頃の造りの経験、研究結果を発揮するときです。
水質検査を欠かさず、安心安全な製品の提供に努めます。
かつて、松井酒造の初代 松井治右衛門は井戸を掘り、村の水飢饉を救いました。
井戸は地域の財産と考えています。
蔵の前の井戸には蛇口が付いており、皆さまに自由にお使いいただけるよう開放しております。

蔵人

くらびと

鴨川蔵を復活させた当初、能登の名杜氏 道高良造氏に師事を仰ぎました。
始めは杜氏と専務の二人だけでスタートした酒造りでしたが、少しずつ蔵人の数が増え、今は5人で酒造りを行います。
専務は社長となり、蔵元杜氏として鴨川蔵を率います。
そして、どうしても手が回らないときには、学生アルバイトさんも活躍してくれています。
毎年、多くはないですが、就職活動のエントリーシート作成や面接のときに酒造りのアルバイト経験が役立った、と報告をしてくれる学生さんもおられ、 それは私たちにとって嬉しい瞬間でもあります。 酒造りをとても身近に感じられる蔵かもしれません。

蔵人の毎日の様子は、こちらからもご覧いただけます。